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韓国籍の方の相続(相続放棄)
こんにちは、名古屋の事務所で弁護士をしています加藤です。
今回もまた前回の続きとして韓国籍の方の相続について説明したと思います。
今回は、韓国の相続法における相続放棄について説明したいと思います。
1 相続放棄について
相続放棄とは、相続の開始を知った日から3箇月以内に被相続人の最後の住所地である家庭裁判所に申立てを行うことで、相続人たる地位を喪失させ、正の財産も不の債務を相続しないで済むようにする制度のことです。
相続放棄という制度自体には、日本と韓国とで大きな違いはありません。
このとき、申立てを行う家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地となりますので、日本在住の韓国籍の人が亡くなった場合、日本の家庭裁判所に申立てを行うことになります。
また、3箇月の期間について、申立てを行えば延長が認められるというのも、共通しています。
2 相続放棄の範囲について
前回の記事でも書きましたとおり、相続人の範囲が日本と韓国とでは異なるため、被相続人が大きな債務を抱えていて、相続人全員が相続放棄をすることを考えたときに、その範囲は異なることになります。
特に注意が必要なのは、被相続人に孫がいる場合です。
日本であれば、第1順位となる被相続人の子が相続放棄を行った場合、さらにその子(被相続人の孫)は相続人とななりませんので、孫が相続放棄を行う必要はありません。
一方で、韓国の場合は、第1順位となる相続人は「直系卑属」となっていますので、被相続人の子が全員相続放棄をしたとしても、次に近い親等の直系卑属である被相続人の「孫」が相続人となるため、孫も相続放棄を行う必要があります。
また、「兄弟姉妹」の相続放棄にも注意が必要です。
日本の場合は、兄弟姉妹が被相続人より先に死亡していた場合、その子が代襲相続人となりますが(配偶者は代襲相続人になりません)、その子も死亡していた場合には、さらにその下へ代襲相続が起きることはありません。
一方、韓国の場合は、代襲相続人は「直系卑属」とされているので、子に限られず、また、配偶者もまた代襲相続人となりますので、ここでも、日本より広範囲に相続放棄が必要な範囲が広くなります。
3 相続放棄の期間経過後の取り扱いについて
被相続人が亡くなって、しばらく経過した後で被相続人の債権者から相続人に通知があり、被相続人に大きな債務があり、相続放棄をする必要があることを知った、というようなケースがよくあります。
このようなときに、日本の場合は、判例によって「相続人が、…相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」(最二小判昭和59年4月27日)とされ、相当の理由が認められれば、債務を知った日を「相続の開始を知った日」として、その日から3箇月以内に相続放棄の手続を行えば、相続放棄が認められることがあります。
一方で、韓国には、そのような判例がない代わりに、債務があることを知らなかったことについて、重大な過失がなかったときには、「特別限定承認」を申し立てることが認められます。
これにより、相続放棄のように何も相続しないというわけではなく、相続する財産の限りで責任を負い、それ以上の債務を負担しなくてもよくなります。
このように相続放棄の分野において、日本と韓国では異なる点も多く注意が必要です。
次回もまた、日本と韓国における相続の違いについて説明したいと思います。
韓国籍の方の相続(相続欠格)
こんにちは、名古屋の事務所で弁護士をしています加藤です。
今回もまた前回の続きとして韓国籍の方の相続について説明したと思います。
今回は、韓国の相続法における相続欠格について説明したいと思います。
相続欠格とは、相続人となる地位のある人であったとしても、法律に定められた一定の事由が生じた場合には、相続することができないようにする制度のことです。
韓国では、大きく分けて2種類の欠格事由(相続権がはく奪される理由)があります。
①被相続人等を死なせようとするような行為をしたこと
たとえ、相続人であったとしても、被相続人に対し刑法に定められる「殺人」「殺人未遂」「傷害致死」といった行為をした場合は、欠格事由に当たり、相続権がはく奪されます。
行為によって、その被害者について範囲が異なります。
「殺人」と「殺人未遂」の場合の「被相続人等」とは、直系尊属、被相続人、その配偶者、相続の先順位や同順位にある者のことをいい、「傷害致死」の場合は、相続の先受遺や同順位の相続人は排除されます。
日本でも同様の欠格事由が定められていますが、その対象は「被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者」であって、殺人カ殺人未遂が対象行為になりますので、韓国における欠格事由の方が、客体も行為態様も日本より広いことになります。
一方で、日本の場合は、自分は上記のような行為をしていないとしても、被相続人が殺害されたと知りながらこれを告発しない場合、原則(行為者に是非の弁識能力がなかったり、その行為をした人が自己配偶者又は直系血族である場合は除かれます)、欠格事由に該当すると定められているため、日本の方が被相続人が害されることに寛容とは言えないでしょう。
②被相続人の遺言に関する不正行為
詐欺又は脅迫により被相続人の相続に関する遺言又は遺言の撤回を妨害したり、詐欺又は脅迫によって被相続人の相続に関する遺言をさせたり、遺言書を偽造・変造・破棄又は隠匿したりした場合には相続権がはく奪されます。
これらと同様の行為が欠格事由に該当することは、日本も同じですが、韓国と日本では遺言書におけるルールが異なる部分もありますので、全く同じ行為でも欠格事由に当たるかは判断が異なる場合があります。
韓国では基本的上記法律に定められたこれら事由によって法律上当然に相続権がはく奪されます。
これに対して、日本の場合はこうした当然にはく奪される相続欠格以外にも被相続人に対する重大な非行があった場合に被相続人が家庭裁判所への申立てを行うことで(生前でも遺言書に書いておくことで、死後遺言執行者によって申立を行うことも可能)、相続権をはく奪する「廃除」という相続権をはく奪する制度がありますが、韓国にはありません。
こうした相続欠格についての制度は国ごとの風習や価値観等によって異なるところですので、注意が必要です。
次回もまた、日本と韓国における相続の違いについて説明したいと思います。
韓国籍の方の相続(法定相続分)
こんにちは、名古屋の事務所で弁護士をしています加藤です。
前回の続きとして韓国籍の方の相続について説明したと思います。
今回は、韓国の相続法における法定相続と日本の法定相続分の違いを説明したいと思います。
ある人が亡くなったとき、その人(被相続人)の財産が誰に相続されるのかについて、日本の法律でも、韓国の法律でも定められています。
その相続をする人を「法定相続人」といい、相続する割合についてを「法定相続分」といいますが、日本と韓国では異なります。
まず、法定相続人についてです。
日本での法定相続人は以下のとおりです。
①第1順位
配偶者と子ども(代襲相続人)
②第2順位(被相続人に子どもがいない場合)
配偶者と直系尊属
③第3順位(被相続人に子どもも直系尊属もいない場合)
配偶者と兄弟姉妹(代襲相続人)
日本では配偶者以外の法定相続人については、存在しない場合や死亡している場合、相続放棄をした場合など相続人ではなかった場合には、次の順位へ進みます。
韓国での法定相続人は以下のとおりです。
①第1順位
配偶者と直系卑属(その代襲相続人)
*代襲相続とは、被相続人より先又は同時に死亡している場合(韓国では相続放棄も含まれます)には、その次の世代(被相続人からみて、孫やひ孫)が代わりに相続人となります。
②第2順位(直系尊属がいない場合)
配偶者と直系尊属
*日本では直系尊属も直系尊属がいない場合は、第3順位に移りますが、韓国では配偶者の単独相続になります。
③第3順位(配偶者がいない場合)
兄弟姉妹(その代襲相続人)
④第4順位(兄弟姉妹がいない場合)
4親等内の傍系血族(親子関係にない親族)
叔父、叔母、従兄妹、祖父母の兄弟姉妹などです(日本では法定相続人とはなりません。)
これをみれば、韓国の場合は、日本より広く、関係性の薄い関係まで相続人となる可能性があります。
この財産が広がる関係を望むのであれば、韓国法は適切ですが、同時に複雑な関係になることを望まないのであれば、遺言書などの対策を行う必要があります。
次に法定相続分です。
日本でも韓国でも法定相続人と同時にどれくらいの割合で相続するのかという「法定相続分」が定められています。
しかし、第1順位や第2順位のような日本と韓国で法定相続人が重なるところでも法定相続分が異なるところがあります。
日本での法定相続分は以下のとおりです。
①第1順位
配偶者:子ども(または代襲相続人)=1:1
*配偶者以外の相続人については、複数人いる場合は頭数で割ります。
②第2順位
配偶者:直系尊属=2:1
*配偶者以外の相続人については、複数人いる場合は頭数で割ります。
③第3順位
配偶者:兄弟姉妹(または代襲相続人)=3:1
*配偶者以外の相続人については、複数人いる場合は頭数で割ります。
*兄弟姉妹が相続人となる場合は、被相続人と親が片方しか一致しない場合(いわゆる半血兄弟)は、両親が一致する兄弟(いわゆる全血兄弟)の半分になります。
韓国での法定相続分は以下のとおりです。
①第1順位
配偶者:直系卑属=1.5:1
*直系卑属が複数人いる場合は、等しい割合とし、配偶者はその5割増しになります。
配偶者と子どもが1人の場合の割合は
配偶者が3/5、子どもが2/5となります。
配偶者と子どもが3人の場合の割合は
配偶者が1/3、子どもが2/9ずつとなります。
②第2順位
配偶者:直系尊属=1.5:1
*直系尊属がいない場合は、100%を配偶者が相続します。
③第3順位
相続人は均等に分けます。
*被相続人と親が片方しか一致しない場合(いわゆる半血兄弟)は、両親が一致する兄弟(いわゆる全血兄弟)の半分になります。
④第4順位
相続人は均等に分けます。
このとおり、相続分についても日本と韓国で異なります。
韓国では、配偶者がより保護される結果となります。
相続において日本の法律を適用させるか、韓国の法律を適用させるかの重要なポイントとなりますので、注意が必要です。
その他にも韓国と日本の相続において違いがありますので、次回もまた韓国と日本の違いについて説明したいと思います。
韓国籍の方の相続(適用法)
こんにちは、弁護士の加藤です。
名古屋の事務所で相続を主に取り扱っている自分ですが、ここ最近なぜか韓国籍の方の相続手続きのご相談が相次ぎました。
僕の中の韓国といえば、母親と妹が見ているドラマを横目でつまみ食い的に見る印象のあるものでした(何本かは自分もはまって通して見直したりしました)。
韓国ドラマの中には、韓国の財閥とドロドロとした陰謀をテーマにしたものもいくつかありましたが、話の筋からすると、妙に相続について違和感のある考えを前提にしているような気がするものもありました。
そこで、最近韓国籍の方の相続を取り扱うこともあるので、いくつか本を取り寄せて、韓国の相続について勉強しましたので、この場で共有させていただければと思います。
そもそも、勉強を始めようと思って、まず思ったのが、「韓国の相続法を勉強して日本の弁護活動に意味があるのか。韓国籍の人も日本で亡くなった場合は、日本の法律が適用されるのでは、あまり役に立たないのではないか。」ということです。
この点、まず日本の法律である法の適用に関する通則法36条には、
「相続は、被相続人の本国法による。」
と定められています。
つまり、亡くなった方が韓国国籍を有する場合、その相続については、原則として、韓国の民法が適用されることになります。
例外としては、遺言で準拠法を日本法によることを定めることで、日本法が適用できると解釈されています。
根拠としては、法の適用に関する通則法41条において、当事者の本国法に依るべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による、とされています。
これに対して、韓国法においては、日本と同じく原則相続は、被相続人の本国法による、としつつ、遺言で被相続人の常居所の国の法律を相続の準拠法に指定したうえ、死亡の時まで居住している場合には、被相続人の相続は、その国の法律を適用できると定められています。
そのため、韓国籍を有する方が、日本で死亡した場合には、原則韓国法が適用され、例外的に遺言書がある場合に、「日本の法律に従って相続をする。」と定めている場合は、日本の法律が適用されます。
韓国籍の方が亡くなった場合には、日本の場合と同じく、遺言書の有無を確認するべきでしょう。
また、後日のブログでも取り上げますが、韓国法に依る場合は、録音による遺言という形式もありますので、日本のように紙だけ探せばいいというものではありません。
そして、韓国も日本と同じく遺言書については、形式が法律で定められていますが、日本とは異なるものもありますので、有効性判断については、日本法によるものとは違う配慮が必要です。
もし、自分の相続では、日本法を適用して欲しい韓国籍の方がいる場合は、韓国法に詳しい専門家に相談されることをお勧めします。
次回は、韓国籍の方が韓国法を適用するか日本法を適用するかの判断材料とするために、韓国と日本の相続の違いについて解説します。
それでは、また次回にお会いしましょう。
遺言執行業務(不動産名義変更)
こんにちは
つい前まで、夏の気温でスーツが鬱陶しいと感じていたのに、急に寒くなりました。
名古屋の秋はどこへ行ってしまったのか。
事務所下にあるコンビニスイーツくらいからしか秋の訪れを感じません。
さて、今回は、名古屋で弁護士として遺言執行業務を扱う中で、確認した内容について皆様と共有できればと思います。
遺言執行業務を行う中で、不動産名義変更を行わなければならない事態が生じることがあります。
平成30年7月1日の法改正によって遺言執行者の権限が明確化と強化がなされました。
具体的に言えば、「特定財産承継遺言」の場合は、遺言執行者単独で相続登記手続を行うことができるようになりました。
「特定財産承継遺言」とは、特定の不動産を特定の相続人に対して相続させるという内容の遺言のことです(例えば「不動産Aを相続人αに相続させる。」といった内容です。)。
このような場合は、相続人から別途委任状をうけることなく、遺言執行者が単独で相続登記を行うことができるようになりました。
このような取扱いは、民法1014条2項により、定められました。
(預貯金等の遺言執行者単独での解約権限は同条3項により定められています。)
改正前は、「相続させる」遺言がある場合、相続開始と同時に当然に指定された相続人へ不動産の権利が移転されると考えられていたため、遺言執行を行う余地はなく、そのような場合の不動産名義変更について、遺言執行者に権限はなく、その不動産について相続を受けた相続人が単独で相続登記手続を行うこととされていました。
なお、相続人による登記手続は依然として可能です。
ここで注意しなければならないのが、この改正平成31年(2019年)7月1日に施行されているということです。
つまり、このような遺言執行者単独登記の権限は、遺言書が作成されたのが、2019年7月1日以降の場合のみとなります。
相続開始日ではなく、遺言執行者を選任する遺言書作成日が基準となりますので、相続登記手続を行う前に単独申請が可能であるか確認する必要があります。
2019年7月1日より前に遺言書が作成されていた場合は、従来とおり、不動産の相続を受けた人が単独で相続手続きを行うことになります(預貯金等の解約についても同様です)。
その他、民法の改正についての細かなルールについては、次回にまとめさせていただきたいと思います。
それでは、また次回にお会いしましょう。
海外在住者がいる場合に利用する本人確認資料(署名証明)の種類
こんにちは、弁護士の加藤靖啓です。
本日は名古屋で多くの相続案件を取り扱う中で、海外在住者が相続人にいた際に学んだ事項についてご紹介させていただければと思います。
前々回では、海外在住の日本人がいる場合に、通常、国内在住者であれば、本人確認のため遺産分割協議書添付する印鑑登録証明書の代わりとなる「署名証明」についてご紹介いたしました。
今回は、その署名証明についてもう少し詳しくご説明いたします。
署名証明は、日本に住民登録していない海外在留者に対し、申請者の署名(及び拇印)が確かに在外公館にて領事の面前で行われたことを証明するものになります。
料金については、一通当たり1200円相当で、現地の現金でお支払いします(詳細については領事館毎に異なる場合がありますので、事前のお問合せをお勧めいたします)。
遺産分割協議書の添付資料として、署名証明を利用する際に最も注意しなければならない点の1つが、署名証明には形式があるということです。
署名証明には、在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合せて割印を行う「形式1」と、申請者の署名を単独で証明する「形式2」があります。
形式1は貼付型、形式2は単独型などと呼ばれたりすることがあります。
この書名証明の種類は、形式からも分かるとおり、一般的には形式1の方が信用性が高いと判断される場合があり、不動産登記手続においては、多くの法務局において、形式1の署名証明を求められることが多いと思われます。
一方で、形式2は書面から独立しており使いまわしが形式1に比べ容易であるため、多くの金融機関でのお手続きが必要な場合などは、形式2の署名証明が利用される場合が多いように思われます。
ただし、署名証明(併せて遺産分割協議書)を提出する機関毎に求められる署名証明が異なるということに注意しなければなりません。
お手続きを行う前に各機関へお問い合わせを行い、必要な署名証明について把握しておくことがいいでしょう。
海外在住者に取得し直しをお願いし、取り直すことは国内で印鑑登録証明書を取り直すことよりも困難な場合がほとんどであると思われますので、事前準備は入念に行うことをお勧めいたします。
外国国籍の相続人がいる場合の遺産分割協議書
こんにちは、弁護士の加藤靖啓です。
本日は名古屋で多くの相続案件を取り扱う中で、調べた内容についてご紹介したいと思います。
前回は、海外在住の日本人がいる場合の遺産分割協議書に必要な書類について日本大使館や領事館で作成できる「署名証明書」についてご紹介いたしました。
今回は、そもそも日本国籍でない相続人の場合に必要となる書類についてご紹介いたします。
そもそも、外国国籍を有する相続人がいるような国際相続について、日本では「相続は、被相続人の本国法による」(法の適用に関する通則法36条)としているため、被相続人(亡くなった人)が日本国籍であるのであれば、日本国籍でない相続人を含めて、一般の相続と基本的に同じ手続きとなります。
そして、日本国籍を有していない場合に、印鑑証明書の代わりに本人の意思確認に用いられるものとしては、「サイン証明」があります。
これは、海外在住の日本人が日本大使館や領事館で作成するものと同じですが、これは現地の公証人またはそれに類似する機関に依頼して作成することになります。
また、そのサイン証明については、現地の言葉で書かれる場合がほとんどですので、それを日本の金融機関や公的機関等に提出する際には、サイン証明に翻訳文を添付するように求められる場合がありますので、事前に準備しておく必要があります。
他に、遺産分割協議書を使って進める相続手続きには、相続関係を示すことがほぼ必須といってもいいのですが、外国国籍の相続人では戸籍によって相続関係を証明することが困難です。
そこで、戸籍の代わりとなる書類として、その国の出生証明書や婚姻証明書、あるいは「相続人であること宣誓供述書」を公証人に作成してもらうなどの方法があります。
以上の簡単な説明でも分かるとおり、外国国籍を有する相続人がいる場合の手続は日本国籍のみの場合と比べて必要とされる書類が異なる点が多い場合があります。
そこで、そのような方がいる場合の相続手続きについては、より一層注意深く行う必要があり、専門家へご相談されるとよいでしょう。
次回は、海外在住者がいる場合に利用する「署名証明書」について注意するべき点についてご紹介させていただければと思います。
では、また次回。
海外在住の相続人(日本国籍)がいる場合の遺産分割協議書
こんにちは、弁護士の加藤靖啓です。
本日は、名古屋で多く相続についての弁護士業務を取り扱う中で、調査した内容について、皆さんと共有した方がいいのでは、と思った内容についてお話させていただければと思います。
昨今の国際化の中で、親族の中に海外で暮らしているという人が増えてきているのではないでしょうか。
外務省のデータによれば、令和5年10月1日時点で、129万3565人( ウクライナ、アフガニスタン、イラク及びシリアを除く)(外務省HP 「統計・お知らせ」より)もいるそうです。
そうした中で、海外在住者の中に相続人がいる場合の遺産分割は何か異なるものがあるのか、ということを心配される方もいらっしゃいます。
結論から申し上げれば、遺産分割自体は、相続人が国内にいるか、いないかで法律上異なるものは原則ありません。
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議は成立します。
しかしながら、当然海外にいるからこその事実上の違いが生じる場合があります。
その中の一つが、遺産分割協議書に添付される書類です。
日本在住であれば、遺産分割協議書に相続人の署名と実印による押印があれば、その実印の印鑑登録証明書があれば、公官庁や多くの銀行は本人の意思で作成された書面であると確認し、相続手続きを行うことができます。
しかし、印鑑登録証明書は日本に住所地がない場合は、基本的に作ることができません。
そのため、海外在住者の場合は別の書類を用意する必要が生じます。
その代替できる資料の一つが、「署名証明」です。
これは、書類上の署名が自分のものだと証明したい海外在住者の方が、その国の日本大使館・領事館で署名すべき書類に署名をしたときに、その署名が本人によってなされたものと証明するものになります。
署名証明を発行には、有効なパスポートなどの本人確認書類と、サインすべき書類を用意して本人が作成場所に赴けば作成可能です(1700円相当の手数料(現地通貨)も必要となります。)。
ただし、相続手続きによっては、さらに追加で資料を求められる場合もありますので、全員が日本在住の場合に比べて、手続きが複雑化することが多いです。
また、日本大使館・領事館を利用するため、国籍が日本でない場合には、日本大使館や領事館でのお手続きは困難です。
そこで、次回は国籍が日本以外の方が相続人にいる場合の遺産分割協議についてお話したいと思います。
では、また次回で。
受遺者が先に死亡した場合の処理
こんにちは、弁護士の加藤です。
つい最近まで、大雨の日が続き、私が普段利用している名古屋駅でもつい最近雨で電車が止まるという事態が生じていましたが、そんな梅雨が明けると、一気に夏らしい季節が来るのが日本の気候ですね。
体調を崩さないように、気を付けていきたいと思います。
皆様もこまめに水分をとるなどして、体調にはお気をつけください。
今回は、無料相談を通じて、ご相談された中で、一般の方に誤解が生じていると思われる遺言の内容についてご紹介したいと思います。
それは、遺言書で財産を受け取ることとした人が亡くなった場合、その財産は誰が相続するかということです。
一般の人の中には、長男に家を相続させる内容の遺言書を作成しておいて、長男が亡くなった場合は、その長男の子に相続されると考える人もいるようですが、これは誤りです。
民法995条に「遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する」と記載されており、長男が遺言者より先に死亡した場合は、その財産は、遺贈者のその他の財産に含まれることになります。
一方で、民法995条は「ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」としています。
そのため、仮に遺言書に「その他財産」として、特定せずに誰かに相続させる内容が書かれていた場合は、その人に相続されますし、そのような記載がない場合は、遺言書がないものとして、相続人間で協議する必要があります。
こうした事態を避けるためには、遺言書に、先に長男が亡くなった場合は、その子に相続させるというような条件付きの条項(一般に予備的条項といいます。)を加えたり、長男が亡くなった後に、遺言書を書き換えるといった方法をとることで、希望とおりの相続をさせることができます。
そのため、遺言書の作成の際には様々なシチュエーションを想定しておく必要があり、また、一度遺言書を作ったとしても状況に合わせて作り直すということが必要です。
遺産分割協議の落とし穴①(金銭の負担)
こんにちは、弁護士の加藤です。
本日は、名古屋で弁護士業務を行う中できた相談について、皆さんと共有した方がいいいのでは、と思った内容について、ご紹介したいと思います。
相続に関する相談の多くは、これからのお手続きについてです。
これから遺産分割をするから手続きをしてほしい、将来の相続に備えて遺言書の作成などをしたい、遺言書が発見されたが、自分は何ももらえなかったから何か請求できないか、などです。
一方で、すでに相続手続きは完了したが、その結果不満があって相談に来るという人もいます。
その中の一つは遺産分割協議に条件を付けたがそれを守らない、というものです。
例えば、父親が亡くなり遺産分割協議を行い、子の一人に対してすべて相続させる代わりに母親の面倒を看るという内容にしたが、その子が面倒を看ない、といったケースです。
当然、他の子や母親はその子に対しどうにか面倒を見てもらうか、それができないのなら遺産分割をやり直したいと考えます。
しかしながら、遺産分割協議が成立すれば、相続人の一人は同協議で負担した事情を履行しないとしても、それをもって他の相続人は遺産分割協議を解除(遺産分割協議をなかったことにしてやりなおす)することはできないとするのが現在の判例です(最高裁判所判例平成元年2月9日)。
相続人全員の合意があれば、遺産分割協議をやり直すことも可能ですが、親の面倒を看るという約束を破った人がやり直しを受け入れることは少ないというのが現状です。
そのため、親の面倒を看るといった内容を遺産分割に組み込んだからといって安心することは危険だということです。
こうした将来の親の生活を守るために遺産分割協議を行うというのであれば、遺産分割中でなく、別の方法を考える必要があります。
簡単なところですと、親の生活のために必要な財産は親が直接相続し、面倒を看てくれる人に対し、生前贈与の形で財産を渡すことで、面倒をみることへの負担を減らすなどといった方法です。
他にも事情によってとることのできる方法は異なりますので、親の一人が亡くなり、残される親の生活を考えての遺産分割を考えるときは、一度専門家にご相談することが重要です。